あらすじ
大切な人を、自分の心を取り戻す再生の物語
大学生のゆきなのもとに突然現われた、もういるはずのない兄。だが、奇妙で心地よい二人の生活は、続かなかった。母からの手紙が失われた記憶を蘇らせ、ゆきなの心は壊れていく…。
感想
以前、橋本紡さんが自身のブログで「ここ数年のあいだに僕が書いたものの中で、もっともいい作品の一つでしょう。」とまで言っていた作品。
物凄く気になっていたんですが、正月にようやく読めました。
主人公のゆきなのもとに死んだはずの兄・禎文が突然現れるところから物語りは始まります。禎文が幽霊であることを二人は受け入れて昔のような生活を送っていくわけですが、この兄妹の何気ない描写がどれも非常に良いのです。特に、禎文がゆきなのことを凄く大切に思っているのが読んでいて凄く伝わってきます。
また、章ごとに太宰治や田山花袋などの作品をゆきなが読んでいて、日常の出来事と気持ちを重ねたり悩んだりと『文学少女』を髣髴させるような構成も凄く良かった。惜しむらくは、私がそれらの作品を読んだことがないことですが…。
そして、終わりの方の禎文の別れ際の科白は本当に心にきましたね。生きるってことは楽しいことだけじゃないけどそれでも希望を捨てちゃいけない、そういう風に考えさせられました。
あと、個人的に好きな名言。
「食べてみないとわからないなんて、まるで人生みたいじゃないか。この料理を作るたび、あるいは食べるたび、そういうことを思い出す。実に素晴らしい。しょせんはトマトスパゲティだから、なにかを入れすぎても、そこそこおいしくできるんだ。ほら、それもまた、人生みたいだろう」
総括
澄んだ話だった。
適合度:★★★+